みなした
水無田 気流(みなした きりう)
プロフィール

第32話

ー ありがとう大五郎、負うた子に教えられ… ー

 わが一子大五郎(仮名)、現在9歳8か月。母である私が、デタラメなほど地方講演など出頭の多い仕事をしているため、本家・子連れ狼よろしく旅が多い子どもである。もともと大五郎は、「パパ」「ママ」に次に覚えた言葉は「でんちゃ」だったほどの乗り物好き。飛行機は、離陸時に「ヤッホー!」と叫ぶほどである。
 先日は、大五郎念願の寝台特急「サンライズ出雲」に乗った。東京駅ホームに入ってきたサンライズ出雲を見ただけで、大興奮の大五郎。私のiPhoneを奪い取り、写真を撮りまくり、乗車してからは寝台の上を転げ回り、全開の笑顔のまま寝落ちしていた。それにしても、サンライズとはよく言ったもので、朝になり岡山から山陰地方に向かうあたりから、ずっとさんさんと強い朝日が差し込んでくる。目が覚めた大五郎は、ずっと地図帳と景色を交互に眺めていた。
 米子で降りて、仕事先の境港駅に着き、せっかくだから講演の前に大五郎の好きな『ゲゲゲの鬼太郎』の作者・水木しげる先生の記念館に行こう、と思ったが……。道に迷った。私は極度の方向音痴である。しかも、一晩寝台特急に揺られていたため、軽く乗り物酔いになってふらふら。一方、大五郎は乗り物酔いにならない羨ましい体質である。以前家族で寝台特急あけぼのに乗った時も、夫と大五郎はピンピンしていたのに、私だけふらふらしていたのを思い出しながら、グーグルマップを見てこっちか、いやあっちか……と言っていたら、大五郎が言った。「ママ何やってるの? 記念館はこっちだよ」当たり前のようにすたすた行ってしまう大五郎を追って行くと、水木しげる記念館はすぐそこにあった。……地図帳大好きなわが子は、私に似ず地図の読める人間に育ってくれたらしい。ありがたや……と思っていたら、「こんな簡単な道で、迷えるほうが不思議だよ」と嫌みを言う。成長は、子どもに役立つ能力を与えると同時に、可愛げを奪うのか……。嬉しいような、腹立たしいような思いをかみしめる母であった。

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破線